記事を探す

新近江名所図会

新近江名所圖會 第212回 彦根藩主が愛でた風景 ―玄宮園・楽々園―(彦根市金亀町)

彦根市
写真1 玄宮園から彦根城を望む
写真1 玄宮園から彦根城を望む
写真2 臨池閣と魚躍沼
写真2 臨池閣と魚躍沼
写真3 船着き場
写真3 船着き場
写真4 御書院
写真4 御書院
写真5 水田
写真5 水田

本コーナーには、滋賀県民が誇る国史跡彦根城(天守は国宝に指定)について、すでに3回にわたってご紹介しています(第92・101・180回)。今回は、少し視点を変えて、彦根城の一部であり、かつ北東すぐ近くにある楽々園(らくらくえん)と玄宮園(げんきゅうえん)について紹介します。
楽々園は江戸時代前期に彦根城二の丸に造営された御殿であり、玄宮園はその隣に造営された庭園です。現在は呼び分けられていますが、江戸時代には合わせて「槻御殿(けやきごてん)」と呼ばれていました。『井伊年譜』には、延宝5年(1677)に4代藩主井伊直興によって造営が開始され、同7年に完成したと記されています。江戸時代中期以前の大名庭園の典型例として、昭和26年(1951)に国の名勝に指定されました。
楽々園・玄宮園のある場所は、もともと北側の松原内湖(現在は揚水による干拓で陸地化していて、耕作地や宅地などに利用されています)に面した広大な干拓地でした。江戸時代初期には家臣の屋敷があったとも伝えられていますが、これらの造営にあたって大規模な拡張工事を行ったと考えられ、その面積は藩庁であった表御殿をはるかに超えるものでした。
●玄宮園
広大な池水を中心に池中の島や入江に架かる9つの橋などからなる大池泉回遊(だいちせんかいゆう)式の庭園で、その名は中国の宮廷に付属した庭園を「玄宮」と称したことにちなんで命名されたようです。彦根城天守や木々を借景(写真1)に、樹木や岩石・池を巧みに配するなど、池の周囲は琵琶湖の近江八景を模して造られ、趣きのある庭になっています。
園内を見渡す好所には数寄屋建築「臨池閣(りんちかく)」(写真2)が立ち、築山には彦根藩が賓客をもてなすための客殿「鳳翔台(ほうしょうだい)」があります。また、池の「魚躍沼(ぎょやくしょう」(写真2)には4つの中島が設けられ、それらには回遊のための橋が架かっていました。園内をゆっくりと回遊できるように、現在確認できるよりもたくさんの園路が設けられていました。そのほか、江戸時代に描かれた『玄宮園図』には、「龍臥橋(りゅうがばし)」・「鶴鳴渚(かくめいなぎさ)」・「春風埒(しゅんぷうれつ)」・「鑑月峯(かんげつほう)」・「薩埵林(さったりん)」・「飛梁渓(ひりょうけい)」・「涵虚亭(かんきょてい)」が示されていて、合わせて「玄宮園十勝」と呼ばれていたようです。
池の水は、湧水の豊富な外堀からサイフォンの原理を利用して供給されており、小島の岩間から水を落として滝に仕立てていました。池には船着き場(写真3)があって、園内で舟遊びを催すこともあったようです。また、松原内湖に面した庭園の北側には水門が開き、大洞弁財天や菩提寺である清凉寺・龍潭寺への参詣、あるいは松原にあるもう1つの下屋敷:御浜御殿へ藩主が赴く際には、そこから御座船(ござぶね)で出向いていたようです。
●楽々園
直興没後、倹約令などにより楽々園の建物の規模は縮小傾向にありましたが、文化10年(1813)の11代藩主井伊直中の隠居に際して大規模な増改築が行なわれました。その規模は、現在のおよそ10倍とその歴史の中で最大規模になりました。現存する御書院(写真4)はその際に新築されたもので、御書院に面して新たに庭園も築かれました。この庭園は、現在は枯山水となっていますが、古絵図には満々と水をたたえた様子が描かれています。
御書院の奥は次第に渓谷の風情をなし、地震の間・楽々の間などへと連なります。地震の間は、耐震構造を持つために今日そのように呼ばれていますが、当時は茶の湯に用いる茶座敷でした。楽々の間も同様に数寄屋建築であり、12代藩主井伊直亮により地震の間のさらに奥に増築されました。楽々園の名の由来となった建物であり、煎茶の茶室として近年注目されています。その後は、再び縮小傾向に向かいますが、最近では明治14年(1881)から平成6年(1994)まで民間業者による旅館営業が行われていて、その際にも建物が増築されました。

近年、保存・整備を目的として、玄宮園・楽々園では彦根市教育委員会により発掘調査が行われています。その成果は、現地説明会などを通じて一般にも公開されているため、ここでは詳しく触れませんが、そのデータを基にして本来の姿に戻す作業が長期計画で進められ、涸れ滝や水田(写真5)などが復元されています。彦根藩代々の藩主が愛でた風景を見に、訪れてみてはいかがでしょうか。(小島孝修)

アクセス
【公共交通機関】JR西日本 東海道本線 彦根駅下車 徒歩約15分
【自家用車】名神高速道路彦根IC下車10分、有料駐車場あり

Page Top